ここ最近、邦画をよく観るようになった。
洋画だと字幕ばかり読んでしまって肝心の映像にあまり集中できないという情けない理由もある。
正直邦画に対するイメージが「名作もあるけど9割マンガ原作の駄作」だったのだけど、全然そんなことない、おもしろそう!という映画をよく見かけるようになった。
今回の「紙の月」も期待以上のおもしろさだった。
主人公・梅澤梨花は自分に自信がない。他人から認められたい・必要とされたいと思っている。自尊心が決定的に欠けていて、なにをしても満たされない。
一見大人しそうで夫にも従順、ノーと言うことができない。だが他人に認められるためならあっさり顧客のお金に手をつけてしまう。
彼女が横領に走るときのノイズのような音も良かった。
「ちょっとぐらいいいよね」「バレないよね」
そんな言葉が頭に浮かんでいる時、血液はこんな音を立てながら体内を走っているのかもしれない。
把握できないほどの金額を使っても彼女は満たされない。彼女が欲しかったものはお金じゃないのだ。
大島優子の演技が自然で驚いた。見るからにイマドキでかわいくて、要領も良くしたたかな女の子の表情、リアクションをすんなり引き出していた。AKBを卒業してからあまり見ていない気がするが、他の役をどのように演じるのか興味が湧いた。
小林聡美の演技もよかった。
「かもめ食堂」や化粧品のCMからのほほんとしたイメージを抱いていたが、自分にも他人にも厳しい役を頭のてっぺんからつま先まで演じきっていた。
正論を言うけれど偉ぶらず、仕事に対する姿勢もぶれず媚びは売らず、おかしいと思ったら相手が上司であれもの申す。
目は鋭く、刺々しさはないが周りを緊張させる口調に「カッコイイけど自分の上司だったらしんどいな〜…」なんて思うぐらいリアルだった。
そんな厳しい彼女は徹夜をしてみたいと言う。
「したことないの。翌日に響くから」
なんとも彼女らしい理由だ。同じく梨花も徹夜をしたことがないと言う。
終盤の梨花と隅の会話はとてもいい。人が本当に自由になれるのは頭の中だけだと思い知らせてくれる。生きている以上、何かしら縛られ制限される。幸せもいつかは必ず終わる。それが当たり前の世界なのだ。だが梨花はそんな世界に思い切り風穴を開けてくれる。その抵抗は清々しく、爽快だった。
エンディング・テーマも良い。曲名は「Femme Fatale」。 正に梨花のことだ。
映画の本編とは関係ないが、おぉ!と思った演出があったので書き記しておきたい。
終盤、隅が話している最中梨花が言葉をかぶせてくるシーンがある。隅は驚きながらも口の中でモゴモゴ言葉を続けるが聞き取れない。
セリフにセリフをかぶせる時、かぶせられた方が相手がかぶせてくる直前に不自然に言葉を切ることが少し前から気にかかっていた。実際にはかぶせられた後、少し言葉が続くはずだ。
こういう細かい演出がされている映画を観ると、嬉しくなる。